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千葉家庭裁判所木更津支部 昭和56年(家)733号 審判 1982年12月24日

主文

一  被相続人亡吉田健司の遺産を次のとおり分割する。

1  別紙遺産目録(編略)17.26.28.36の物件を申立人吉田公子の取得とする。

2  同目録14.15.27の物件を相手方吉田淳の取得とする。

3  同目録1ないし13.16.18ないし25.29ないし35の物件を相手方吉田秀明の取得とする。

二  相手方吉田秀明は、遺産取得の代償として、相手方川畑まき子及び同江田悦子に対しそれぞれ金138万5806円を支払え。

理由

一、相続人と法定相続分

一件記録によれば、被相続人吉田健司は昭和50年12月23日死亡し、同人に属する一切の権利は、同人の妻である申立人吉田公子が3分の1、いづれも同人の子である相手方川畑まき子、同江田悦子、同吉田淳が各6分の1の割合をもつて相続し、いづれも被相続人の子亡吉田俊輔(昭和44年12月17日死亡)の子である相手方吉田敏子及び相手方吉田秀明が各12分の1の割合をもつて代襲相続したことが認められる。

二、遺産の範囲

一件記録によれば、別紙遺産目録記載1ないし36の物件が亡健司の所有に属する遺産であること、現在上記遺産の全部を申立人公子並びに相手方秀明の法定代理人である吉田宏子が共同して占有管理していることが認められる。なお、被相続人死亡時において同人名義の貯金が211万4955円あつたことが認められるが、この貯金は被相続人の葬儀費用、その後の供養の費用、墓石建立費用等に全部費消されていることが認められるので、遺産分割の対象とすることはできない。また、被相続人死亡当時、耕運機ほか4点程度の農機具があつたことが認められるが、これらはいづれも一家の農耕の具とて長年使用されて来た古い物であり、死亡当時の評価額も明確ではなく、またその一部については被相続人死亡後に前記宏子において代金を支払つたものもあり、これを遺産分割の対象とするのは適当でない。

三、特別受益について

審理の過程において、申立人及び相手方らは被相続人の生前にそれぞれ相手当事者らが被相続人から生前贈与を受けた旨陳述しているが、現時点においては、これら生前贈与の有無並びにその額を適確に認めるに足りる資料はないので、これを審判の対象とすることはできない。

四、寄与分について

一件記録によれば、次のとおり認めることができる。

被相続人健司は、明治38年に本籍地で出生し、尋常高等小学校卒業後ただちに農業に従事し、早くに父光太郎を亡くしたため、若い頃から一家を支え苦労したが、昭和2年に申立人公子と結婚し、その間に長女まき子(相手方川畑まき子、昭和3年6月3日生)、二女悦子(相手方江田悦子、昭和7年6月25日生)、長男俊輔(昭和10年12月3日生)、二男淳(相手方吉田淳、昭和13年3月28日生)をもうけた。被相続人は、昭和13年頃本件遺産の大部分を売買によつて取得し、昭和21年から昭和25年にかけて本件遺産の一部を自創法による売買によつて取得し、妻である申立人公子と共同して農業を営んで来た。相手方敏子及び同秀明の父である俊輔は、昭和10年12月3日被相続人の長男として出生し、中学卒業後ただちに家業である農業に従事し、長男であるところから、相手方まき子、同悦子、同淳らが結婚し、或いは独立して家を出てからも、また相手方秀明らの母である宏子と結婚してからも被相続人の許にとどまり、宏子と一緒に農業に従事して来たが、昭和44年12月17日に34歳で死亡した。俊輔死亡当時被相続人は64歳、申立人公子は60歳であつた。俊輔の妻である宏子は、俊輔が死亡した後も婚家を去らず被相続人らと同居し、2人の子供を養育しながら農業に従事し、また被相続人死亡後も現在に至るまで農業に従事している。俊輔が死亡してから後は、被相続人夫婦の年齢からしても、被相続人方の農業の主体は宏子であつたと見るのが相当である。

上記の事実によれば、相手方敏子及び同秀明の父母である俊輔及び宏子の働きがなければ、被相続人に属した現在の遺産が減少していたことは明らかであると考えられ、俊輔及び宏子の上記のような働きは遺産の維持に寄与したものというべく、その寄与の程度は、その年月、態様、現存遺産の額その他本件審理における一切の事情を総合し、現遺産の半額とするのが相当である。宏子の働きは俊輔死亡の前後を通じて遺産の維持に貢献したものであるが、上記は俊輔の相続分を代襲相続した相手方敏子及び同秀明の取得分については一体として考慮されるべきであると考える。

五、相続財産の評価及び各自の取得分

一件記録によれば、相続財産の分割時に近接した時点における相続税課税のための評価額は総額金1662万9672円であるが(申立人及び相手方全員が上記課税のための評価額を基礎として遺産分割することに同意している)、前記四のとおり相手方敏子及び同秀明について認められる寄与分各金415万7418円(16629672×1/2×1/2 = 4157418)を減ずれば、分割に供すべき遺産の総額は金831万4836円(16629672-8314836 = 8314836)となる。

従つて上記遺産の総額を基礎とし、相手方敏子及び同秀明においては各金415万7418円の寄与分を加えて計算すると、各相続人の受けるべき取得額は次のとおりとなる。

1  申立人公子の取得額

8314836×(1/3) = 2771612

2  相手方まき子、同悦子、同淳の各取得額

8314836×(1/6) = 1385806

3  相手方敏子、同秀明の各取得額

8314836×(1/12)+4157418 = 4850321

即ち、申立人公子の取得額は金277万1612円、相手方まき子、同悦子、同淳の各取得額はそれぞれ金138万5806円、相手方敏子、同秀明の各取得額はそれぞれ金485万0321円となる。

六、分割の事情

一件記録によれば、次のとおり認められる。

1  申立人公子は、被相続人健司、長男俊輔、その妻宏子、その子敏子、秀明らと同居して農業に従事していたが、昭和44年に長男俊輔が、昭和50年に被相続人がそれぞれ死亡してのちも、宏子と同居し、宏子が主体となつて営んでいる農業の手伝程度のことをして暮している。将来も宏子や相手方秀明と同居し、その扶養を受けることが見込まれる。

2  相手方まき子は農業を営む夫(56歳)、長男(28歳、土木事務所勤務)その妻(28歳、少学校教師)、孫2人(3歳、10か月)と同居し、孫の子守程度のことをして暮している。遺産分割については、相続分相当物件を相手方秀明に取得させる代償として金銭による支払いを希望している。

3  相手方悦子は美容院を経営し、文房具店を営む夫、次女(18歳、学生)と一緒に生活している。遺産分割については、相続分相当物件を相手方秀明に取得させる代償として金銭による支払いを希望している。

4  相手方淳は、若い頃からコックなどをし、ラーメン屋など開業したこともあるが、現在は腰と関節を痛めて体養中、無職である。ゴルフ場整備会社事務員の妻(42歳)、長男(17歳、学生)と一緒に生活している。

5  相手方敏子は、高校卒業後○○看護学院に入学し、現在看護婦をめざして勉強中、看護学院寮で生活している。遺産分割については、自分の相続分全部を相手方秀明に取得させる旨の意思を示している。

6  相手方秀明は、申立人公子及び母宏子と同居し、現在高校に在学中。卒業後は家業である農業に従事することが見込まれる。

7  申立人公子、相手方淳、相手方秀明の遺産分割に対する意見は別紙取得希望順一覧表(編略)のとおりである。

七、具体的分割方法

以上のとおり認められる各相続人の取得すべき額、生活の状況、分割に対する意見、分割対象となる物件の評価額、その他一切の事情を総合検討した結果、別紙遺産目録番号27の畑、14.15の田を相手方淳の取得とし(この評価額計金152万9451円)、同目録番号17の田、26.28の畑、36の山林を申立人公子の取得とし(この評価額計金294万2621円)、その余の遺産全部を相手方秀明の取得とし、相手方秀明は遺産取得の代償として相手方まき子及び同悦子に対しそれぞれ金138万5806円を支払うべきものとする。上記の結果、本来の相続取得分に比較して、申立人公子においては金17万1009円相当を、相手方淳においては金14万3645円相当を、それぞれ過分に取得することになるが、前記のとおり遺産の評価額を相続税課税評価額によらせていること、また相手方淳には同人において必ずしも取得を希望していない同目録番号14.15の田を取得させていること、その他諸般の事情を考慮し、あえて金銭支払による調整措置はとらないこととする。

よつて、主文のとおり審判する。

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